農家台帳を構築することで部門横断的な情報共有を実現したい

入力に手間がかかるExcelでの営農情報管理から脱却したい

担い手不足解消のために、名簿・台帳を有効活用したい

海と里山に囲まれて農作物は多品目地域

営農振興部:江藤係長(左)、古和課長(右)

 福岡県宗像市は福岡市(博多)と北九州市(小倉)のほぼ中間地点に位置し、大都市圏への利便性もよく、世界文化遺産となった宗像大社・沖の島や隣市である福津市の古墳群をはじめとする“神宿る里”、また、海と里山に囲まれた風光明媚な地域である。J Aむなかたは宗像市と福津市正組合員数約2,700名の組織体である。

 海と里山に囲まれた地だけあって、J Aむなかたが取り扱っている農作物は多品目にわたる。「美味しいむなかた産米は良質な土づくりから」を合言葉に、土壌改良資材散布の推進に取り組んでいます。散布農家に対しJAより助成を行い、品質・収量の向上を図っています。麦は大手ビール工場に卸すために品質維持と安定供給が求められ、大豆は「宗像大豆」の産地として知られています。(営農振興部営農企画課:古和隆彦課長)。

 また、園芸作物の生産も増加し、特にイチゴと「あまおう」の生産地として知られています。露地野菜は霜の下りにくい海沿いで主に生産され、カリフラワー、ブロッコリー、キャベツなどの生産が盛んです。(営農振興部農産販売課:江藤義広係長)。

自己改革が進む営農振興

 J Aむなかたでは、事業全方面にわたって「自己改革」を進めている。このなかで、令和元年度から令和3年度にかけて、特に「営農振興」に関しては、次の観点から多くの成果が生まれた。

① 農業者の所得増大や農業生産の拡大の取り組み

 まず、農業者の所得増大や農業生産の拡大の取り組みでは、令和2年11月からパッケージセンター集出荷貯蔵施設を活用し、市場ニーズに基づいた商品規格の提案及び販売価格の向上と付加価値を創造したイチゴと野菜詰合せのふるさと納税返礼品を中心としたWEB(インターネット)販売に取り組んでいます。(古和課長)。

 そのほか、カントリーエレベーターの新設やキャベツ予冷貯蔵庫の設置による園芸施設の再編、高品質米の生産支援奨励制度(平成28年度~)の継続、炭酸ガスハダニ殺虫システム処理なども進めている。これら設備の新設や取り組みの継続・拡充により、農業者の所得増大や農業生産の拡大に寄与している。

② 地域の活性化に向けた取り組み

 地域の活性化に向けた取り組みでは、「雇用ヘルパー」の派遣を積極的に行っている。雇用ヘルパーとは、JAむなかたが無料職業紹介所として農作業の人材派遣を行っている事業です。主な仕事は、農繁期の収穫補助や集荷・出荷などです」(江藤係長)。現在は180名から200名弱のヘルパーを紹介している。

 そのほかにも、上記パッケージセンターと連携した農産物直売所「ほたるの里」や米粉パン工房「穂の香」の事業運営と、食育活動やアグレス活動(JAむなかた女性部が推進する、ア=あなたも私も、グ=グループも一人も、レ=レッツゴー・みんな一緒で、ス=すてきな会にしよう、という活動)の活性化も、地域の活性化に向けた取り組みとして進めている。

 なお、営農指導事業としては、継続的に農家個々の経営に即した農業経営管理支援と生産販売指導に取り組むとともに、マーケットインに基づく生産と販売強化に取り組んでいる。令和3年度の段階で、営農指導関連支出額は1億400万円となっている。

独自のExcel管理から『戦略営農Navi』に移行中

 JAむなかたでは、他のJAと同様に全国的に統一された生産者・生産物等の管理システムを取り入れていた。ところが、「そのシステムでは入力する時間が全国的に集中して対応が追いつかないケースがあること、JAむなかた特有の農業者・農作物事情をより反映させた対応が求められることなどから、並行して、独自にExcelベースで営農情報の管理を行ってきました」(古和課長)。

 しかし、自前のシステムではどうしても部署の縦割りで作成していることもあり、汎用性に欠ける面がある。また、営農担当者が帰社して打ち込むことを前提としているため即時性に欠ける面もあった。さらに、例えば管理情報から、「何をすべきか」、具体的な次の行動を示すこと、すなわちデータ上で報告・連絡・相談などができにくいなど、利活用がしにくい面があった。

 一例を挙げると、農機情報に関しては、下図のようなシートを作成していた。


 このシートを見ると、訪問日の時系列で並ぶことにより、それぞれの営農担当者が、それぞれの顧客(農業者)にどんな訪問を行っているかは分かる。しかし、全体の農機に関するトレンドを確認したり、一人ひとりの顧客に対して、例えば融資担当など農機担当以外の部署がどのような訪問を行なったりしているかについては、分かりにくい。

 さらに、JAむなかたとして重点的なキャンペーンを打つときに、どんな顧客からアプローチしていったらよいかなどが判断しにくいのも事実だ。

 そのような事情や課題もあり、よりカスタマイズして情報管理しやすい『戦略営農Navi』の導入に2021年7月から踏み切った。

 JAむなかたの導入の目的は、これまで自前のシートで管理していたさまざまな顧客情報をいったんは『戦略営農Navi』にすべて取り込んで、以後は『戦略営農Navi』上でそれぞれの役職者が求める情報を抽出したり、担当者が顧客へのアプローチする精度を高められるように情報を抽出したりすることである。

 この全面的な移行については、道半ばであるのが実情だ。しかし、『戦略営農Navi』では、営農情報の管理や営農支援に関してさまざまなことができる。そのことはJAむなかたの皆さんも理解されているため、「全面的な移行が実現できたあとは、顧客支援の方針や内容を検討していく会議でも、より有益な情報をもとにビジネスができる、いわば会議の精度も高まる」(古和課長)と期待している。

「活用するための農家台帳」を構築していく

 『戦略営農Navi』は、JAの営農担当者を支援する、「活用するための農家台帳」である。各農業者(農家)とJAの営農担当者の間で農家管理、活動報告、コミュニケーション、圃場・施設管理、出荷売上管理、農機管理はもちろん新規就農者管理などを行うことができ、JA側としては営農支援情報に役立てることができる。

 例えば、JAの支店の営農担当者が日々の活動報告や月次の集計、他の営農者の成功例の紹介などを行い、それを管理職や本店の営農責任者にシステム上・モバイル端末上で報告・連絡・相談を行えば、管理職や本店の営農責任者などは、まず日々の状況を逐一把握できるほか、日報の検印、コメント、アドバイスなどもその場で瞬時に行える。すなわち、支店の営農担当者はいつでもどこでも農家情報の確認、活動報告を行うことができ、管理職や本店の営農責任者などはアドバイスや場合によっては決裁などができるのだ。

 農家台帳の構築が容易になることで、情報の一元化・可視化も容易にでき、いわゆる情報共有そのものがスピーディにできる。なお、JA全体(全農)のシステム「Z-GIS」との連携も可能なので、全体的な情報共有もスムーズに進む。

 また、特にJAむなかたのようにこれまでExcelで管理情報を入力していたところでは、その情報を『戦略営農Navi』に取り込むことができるので、それこそ個々の営農担当者にしてみれば、これまでのデータを活かし、新規データについては“打ち込みに慣れる”ことでスピーディに対応できる。

 農家台帳の構築がスムーズに進めば、「日々の活動状況の部門横断的な、“横展開”も実現できると考えています」(古和課長)。すなわち、現場の営農担当者へのキメこまやかなサポートも可能になる。

 古和課長は、「こうした情報活用の高度化については、今後、『戦略営農Navi』の活用研修などを受けて、より早期に使いこなせるようにしたい」と語る。確かに、『戦略営農Navi』への全面的な移行とともに、より積極的に活用するには、まず、「『戦略営農Navi』の使い勝手のよさを実感できるように慣れることが大事」と、古和課長は指摘する。「そのためにはデモなどを通じた研修が欠かせない」とも話す。

 インフォファームの『戦略営農Navi』担当側も、その点は前向きに捉え、今後、集合研修のほか1on 1のアドバイスも積極的に行なっていきたいとのこと。『戦略営農Navi』担当は、「全面移行に際しては、Excelシート全体を取り込む方法がよいのか、それとも『戦略営農Navi』のシステム側をカスタマイズしたほうがいいのか、どちらにも留意すべき点はあるので、二人三脚で協働して取り組んでいきたい」と語る。

さまざまな農家の課題に対応し、積極的に支援していく

最近の農業の課題は、まず農業者・農家の高齢化と事業の承継難、担い手不足だ。JAむなかたも例外ではない。この課題解決のために、「JAむなかたでは親元就農のほか、親族ではない第三者に担い手になってもらう第三者承継に力を入れています」(古和課長)。新規就農移住者は、九州はもちろんのこと北海道からも移住者が訪れ、2022年度は7名の新規就農があった。

また、前出の雇用ヘルパーはJAむなかたが行う独自の制度で、多くのJAでは同様の制度を運営する場合、1日のアルバイトで対応してもらうケースが多いところ、「JAむなかたでは事前登録制で、随時、農家の収穫やたねまきなどの時間に応じて対応してもらっています。登録している方は、学生や退職したサラリーマン、フリーター、主婦などです」(江藤係長)。まさに多士済々のヘルパーが集まっている。

これら新規就農や雇用ヘルパー制度も、まず重要なことは、それぞれの方が、どのように農業・農作業に取り組んでいるかに関する、いわゆる名簿・台帳管理。そのうえでの今後のより充実した支援である。これらの面でも『戦略営農Navi』の農家台帳をはじめ、基本的な管理システムが活かされるだろう。

なお、JAむなかた営農振興部では、今後は『戦略営農Navi』による、登録されている各農業者・農家に向けた経済・金融事業面での活用にも大きな期待を寄せている。